諸橋和子

Kazz Morohashi

美術家

桑嶋維は、写真家の中でもユニークな部類だ。彼が写す犬、鶏、牛はすべて格闘用であり、その写真は暴力が起こる前の命の純粋さを捉えたものである。何年にも渡り、桑嶋はこうした動物とそれを世話する人々の生活、そしてその地域の人々を追っている。いまだ日本のごく限られた小さな地域では、何世紀にもわたる古い伝統に従って、動物を戦わすためにこうした地域性の濃い生き物が繁殖され育てられているのである。この動物たちは大変尊ばれており、格闘は厳格なルールのもとで、お金のためより名誉のために行われている。矛盾して聞こえるかもしれないが、これらの格闘用の動物は多くの場合、天からの授かりもののように大切に、そして高い誇りをもって飼育されているのである。日本人を含む多くの人々が、動物に対してそのような残酷な行いをすることを非難し、痛みを感じる生き物を苦しめることに喜びを見出すような者を嫌悪する一方、桑嶋は激しく戦う動物たちに肉迫するポートレイトを撮影することでこの問題に正面から立ち向かっている。彼は自分の写真を動物虐待防止の手段として用いているのである。「私はこの伝統の記録を残すために写真を撮っています。それが絶滅してもいいように。私の写真は歴史の記録なのです。私の作品の中にその長い伝統が保存されていることを知れば、人々は動物を戦わせることをやめることができるかもしれません。」このような考えのもと、桑嶋は現代的な生活や思考の中では居場所がない多く伝統に対して、彼自身のレンズを通して記録し保存しているのである。この写真展は、もっとも輝かしい成績を収めた闘牛、福田喜和道一号の桁違いの隆盛とその終焉に焦点を当てている。徳之島の闘牛の歴史の中でも最強とされる喜和道一号の栄光は桑嶋のレンズにより永遠となった。喜和道一号は長い間、徳之島の誇りだった。この日本の最南端から500kmのところに浮かぶ小さな島を桑嶋は「闘牛島」と呼ぶ。この島と奄美諸島での闘牛の歴史は強力な薩摩藩により統治されていた400年前に遡る。とりわけ徳之島は闘牛と人々の生き方が濃く混じりあう特異な島として知られている。大判コロタイプによるこの連作において、最盛期と引退後を写した喜和道一号の姿は、その生の儚さと闘牛としての成功とを永遠に留めておくものになっている。プリントは美術印刷の専門家である便利堂コロタイプ工房において、これまで作成されたコロタイプ写真の中でも最も大きい120×120cmになっており、全長5メートルもの圧倒的迫力をもつ写真彫刻に仕上がっている。

 

諸橋和子/Kazz Morohashi

アメリカ育ちの日系アメリカ兼イギリス人。英ロンドン東洋アフリカ研究学院にて美術史修士 を取得後、英セインズベリー日本藝術研究所で数々の日本美術と文化の研究と国際的発信・促進に関するプロジェクトに関わる。現在は独自の制作活動やキュレーションも行い、企画は南アフリカから日本やイギリスをベースにした プロジェクトに関わっている。クリエイティブのネットワークづくりにも積極的で、国内外問わず今後も新たな出会いと交流に大きな期待を寄せる。