マイケル・ホーシャム

Michael Horsham(TOMATO)

アーティスト

写真とは、過ぎ去る一瞬をとらえるサイファーである。サイファーとは、一つの行為あるいはいくつかの行為を目に見える形にしたという結果、ないしは証拠である。サイファーとは、シャッターを切るという一瞬の行為を別の形に変換するものである。シャッターを切るということ、すなわちそれはシャッターを1/24秒、1/100秒(または長さやフィルムスピードがどのくらいであっても)開くことによって、焦平面に光を入れ、ときに本物だったり、ときにバーチャルだったりする被写体を感光板、イメージセンサー、乳剤やフィルムに転化し、半永久的に留めることである。かつてこれは特別な瞬間であった。画像を作るということ。構えて、フラッシュ!ボン! バシャ!見事な写真だ! ニコンが1970年代にモータードライブを開発して高速連写が可能になるまで、写真を作ることはもともと一度限りの事であった。しかし作る行為は加速し続けている。1世紀半の写真撮影の歴史の中で、おそらくその行為は平凡なものになってしまったように思う。少なくとも、あまりに簡単に何度も繰り返すことができるので、それは特別なものではなくなってしまった。「写真」撮影の手段が増殖することは、スマートフォンを持つ全員の選りすぐったハイライトの場面を見せられる機会が増えることを意味する。いまやサイファー/画像は、瞬間を手軽に共有できるコード、ないし成文化なのである。

議論の余地はあるかもしれないが、このような写真の大衆化というのは良いことだ。つまり我々は(少なくとも先進国では)視覚的な理解度の高い文化になってきているのだ。しかしその一方で、これでもかとコードという名の肥料が継ぎ足され、世界中のサーバーという名の畑に積み上げられている。この世界が画像共有に取りつかれた結果であり、誰もが皆イメージメーカーであると思っていることの証なのかもしれない。しかし、インスタグラムのフィルターやフリッカーのフレームを器用に使いこなすことで写真家になれるわけではない。写真家と聞いて思い浮かべるのは、世界のどこかに旅しイメージを作る人、そんなところではないだろうか。イメージの基礎となるもの、すなわち写真家のアプローチとは、普通と違う衝動や欲求などが抽出されて出来上がるものである。夕日を見たとか、靴を買ったとか、ブランチのオーダーが完璧だったとかの証拠として写真があるわけではない。否。自らのイメージを通して物語を伝え続けるのが本当の写真家であるはずだ。

フレーミング、ライティング、シャッターを切ると言った行為を目に見えるものにすることは、一コマ一コマ、その場所その場所、そのモノそのモノの連続した物語を作り上げることである。写真家の目こそが鍵である。このミニ講義を理解してもらえると、桑嶋維の作品の世界に近づくことができる。非常に人目を惹く土偶(始まりが紀元前14000年前まで遡る縄文時代に奉納された人形)の写真は、奥深く静寂で神秘的な物語を内に秘めている。これらの写真を見る時さまざまな問いが心に生まれてくる。それはほかの写真を見ている時には起こらないことである。これは物を肖像画のように撮影した写真である。印刷技術やフレーミング技術はさておき、この奇妙で極めて日本的な物が醸し出す雰囲気とアプローチには連続性がある。ここには日本のモノへの強いこだわりがある。闘牛島・徳之島のシリーズもまたポートレートであるが、こちらはドキュメンタリーポートレートである。この小さな島の闘牛たちは、その傷、体つき、筋肉で歴史を物語る。歴史的にも地理的にも文化的にも日本を代表するものではあるが、それ以上に人間のコミュニケーションやコミュニティがもっとシンプルで直接的で多分もっとパワフルだった時代を伝えてくれるものである。これら闘鶏や闘鶏の写真を通して人間の活動の象徴への興味が続いていくのである。

幾つかの写真やその写真が伝える活動は見るのが辛くなるようなものである。けれど、この活動のドキュメンタリー写真を通して、桑嶋 は我々が急速に珍しくなりつつある手段を使ってお互いどのようにコミュニケーションをとるものなのかという彼の人類学的な興味を表現しているのかもしれない。見て、事実を捉え、それを伝えることは写真家としての役目である。それを人を惹きつけられずにはいられないようなビジュアルで時には美しく見せるのはアーティストの役目である。そのふたつを両立しているのが桑嶋維なのだ。

 

マイケル・ホーシャム/Michael Horsham

イギリス生まれ。 アートデザイン集団 TOMATOのパートナー。TOMATOは1991年に設立以降イギリスにとどまらず国際的にもメジャーなクリエイティブ機関である。1994年から現在に至り、書籍デザイン、芸術インスタレーション及びコマーシャルやキャンペーンなど数多くの制作に関わってきた。クライアントはイギリス放送局(BBC)や沖縄県政府など。メデイア範囲も広く、アート、プロダクトデザイン、音楽やデジタルメデイア制作にも関わってきた。現在英ロイヤル・カレッジ・オブ・アートで講師を務めると同時に新たなコラボ企画にも興味を寄せる。