朱殷 / イントロダクション

一対一の闘争における剥き出しの暴力。

その鮮血を塗りつぶせる愛の色は未だにない。

           作家・丸山健二(「朱殷」帯より。)

小説家丸山健二が本書に寄せたこの言葉にあるように、写真家桑嶋維 (くわしま・つなき)のとらえる世界は、癒しだ、優しさだ、といった あやふやなイメージの世界を叩きつぶす。桑嶋は古来より伝統文化とし て日本各地で行われてきた闘牛、闘犬、闘鶏等「闘う動物」を一心に追 い続けてきた。そこには全身全霊で闘うものの姿を通じて「生きていく 本能」が写り込んでいる。

そして、そこには「最強の力」を次代に伝えようとする遺伝子の意志 と同じ程の、人間と動物の絆なくしてはありえない「営み」が確かに写 っている。

モノトーンのストイックともとれるカバーをひとたびめくると、闘う べくして

選ばれた動物たちの研ぎ澄まされた美しさと、勝利を渇望する 人間の“熱”が、

圧倒的迫力で見る者を最後まで引っ張る驚くべき一冊。

丸山健二 まるやま けんじ

長野県飯山市出身。1968年以降現在に至るまで長野県在住。

1966年に第23回文学界新人賞を受賞した小説「夏の流れ」が、1967年に

第56回芥川龍之介賞を受賞。

男性作家としては依然として最年少受賞者である。その後1973年「雨のドラゴン」、

1976年「火山の歌」がそれぞれ第9回・第12回谷崎潤一郎賞候補作、1987年「月に泣く」が第14回川端康成文学賞候補作となったが、芥川賞受賞の際の騒ぎが不快だったことを理由に賞はすべて辞退した。

文壇とはほとんど関わりを持たずに執筆を続け、中央からは離れたスタンスと

現代都市文明への批判的視座にある力強い生き方から「孤高の作家」とも形容される。