向山富士雄

南アルプス市立美術館 館長(元山梨県立美術館 学芸課長)

桑嶋 維(つなき)は、2005年以降から写真集『闘牛島・徳之島』『朱殷』(いずれも大英博物館、 ヴィクトリア&アルヴ ァート美術館収蔵) 『山梨』の出版をはじめ、エッセイの連載や個展をとおして、作家としての 視線をレンズの向こう に貫きながら、日本の写真美術界に新たな地平を切り開こうとしている、現在もっとも注目したい 写真家の一人であ る。 私が彼の作品にはじめて出会ったのは、2000年に山梨県立美術館のギャラリーで開催された、 ロンドンのポート レート作品を中心とした帰国成果発表展[Air Hole 2000]以降は、猛々しい黒い大牛が角を突き 合う、鹿児島県徳之島の 伝統文化“闘牛”をテーマにした2006年の写真集を発表し反響を呼ぶ。 中でも特に印象的なのは、“闘牛”という血の臭う ような激しいドキュメンタリズムは当然ながら、 闘牛場に集う島民達の優しさや穏やかさといった素直な日常の感性 が同居し、相反する二つの感性が一枚の作品に 見事に表現されている。 常日頃から「僕は、写真とは現代の浮世絵だ と思うのです。」と多くの雑誌の中で彼が語っているように、 時代に残りうる傑作を一点でも多く残したいという信 念で対象と対峙しながら「写真表現とはなにか」という 新しい地平を開こうとする、真摯な制作姿勢と若い作家のエ ネルギーを感じるのである。 今回の作品展では、セインズベリー日本芸術研究所や大英博物館に2010年に収蔵され、 その後高い評価を得た彼の 代表作品集『久遠』(プラチナ・P・プリント)の印画技法を基軸に、あらためてアナログか ら現代のデジタル写真までを 写真史を元にすべて洗い直すことで、特にオルタネイティブ・プリントやインク・ジェッ ト写真、動画作品らを混在させ、 また、「光箱/The lights in a cube」と彼が呼ぶ展示法などにより、 新たな自己表現を確立したいとの強い考えを もっている。 あらためて、彼の若い感性と写真への熱い制作エネルギーが、今回の作品展の機会をいただくことで、近い将来日本の 美術界に新たな写真表現として一石が投じられるよう,その成果に限りない期待を寄せながら、桑嶋維を推薦します。